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「Dancer's plus」に、YTKのトレーナー大野裕二のブログ
「自然体の研究」が合併しました。

自然体の研究< 第 3 章 >

第3章では身体の各部の自然体について考えていきたいと思います。
3-1 とても重たい頭と支える首

 頭部は口を開けるということ以外、大きく形を変えることはできませんので、それをコントロールするには首が重要です。
 首は少し前に湾曲した7個の頚椎の連なりとそれを取り巻く数多くの筋肉からなります。
 左右に180゜近く回旋します。前後左右に160゜くらい屈曲します。
 それらの組み合わせで、かなり広く様々な角度に頭を動かすことが出来ます。
 首の自然な位置や形は、首が立っている胸郭の位置や形に大きく依存します。
 ですから、首の位置や形を自然にしようとした場合、体幹の姿勢が自然でなければならないと言うことになります。

 身体の一番上にあって重い頭は、うまくコントロールできると動作に有効に役立ちますが、うまくコントロールできないと邪魔になります。
 良い例が、小さな子供です。
 まだ幼い子供は、身体全体に占める頭の重さの割合が大きいのと、それを支える筋力が少ないことが、立って体を動かすとき、運動を制限する要素のひとつになってしまいます。

 動き始めるときに、動く方向に首を傾け、重い頭を使って重心をそちらの方向に持って行けば、すばやく動き始めることができるでしょう。
 そうしておいて頭の位置を固定させれば、身体の他の部分を頭を軸にしてスピードアップさせることもできます。
 また、急激なストップをしたいとき、頭を運動の方向に投げ出すことによって、身体の重心を反対方向に保つことができます。
 頭は体幹から離れていて、四肢のように運動そのものに使われることはあまりありませんが、重心の移動に重要な役割を担っていると言えるでしょう。
 ですから、種目を問わず優秀な選手は総じて首が太く、体幹と強く結びついています。
 重いものを動かす筋力も、それを使いこなす神経も、手足のように発達していてこそ、体重移動を伴った素晴らしいパフォーマンスを生むことでしょう。
 ただ、重心の移動と言うのはあくまでも全身でのことなので、首だけで練習できることはほとんどありません。

3-2 とてもデリケートな蝶番 肩

 肩といっても漠然としていますが、今回の場合は鎖骨、肩甲骨、上腕骨の上部、その周囲の組織ということで研究を進めます。

 肩は鎖骨と胸骨のところの関節で体幹部とつながっているだけで、骨格的にはほとんど宙ぶらりんな部分です。
 腕を使う動作をするときには、体幹の一部として腕の動きの起点になり、同時に腕と連動して細かな動作の調整を可能にしています。
 鎖骨と肩甲骨の動く範囲が広いということは、腕の動作半径が広くなるということなので、それだけ動作に幅ができます。
 鎖骨は胸骨を支点としていますし、肩甲骨は肩甲挙筋、菱形筋、僧帽筋で脊柱とつながり、上腕骨の上部に起始部のある大きな筋(大胸筋、広背筋)は直接胸骨、脊柱につながっています。ですから、腕の動作を考えたとき、肩関節より末端に近い部分の動きだけ考えるのではなく、胸骨、脊柱のある正中線を意識することが大切だと言うことです。
 さらに、健常者であれば左右に一対の肩があるわけですから、左右のバランス、連動ということも上手に行われなければ、動作全体が無理なものになってしまうでしょう。

 宙ぶらりんな部分だけに、立っていればどこかしらの筋肉で吊り上げている必要があります。
 吊り上げるための胸鎖乳突筋や肩甲挙筋、僧帽筋などは、ただでさえ疲労して肩こりになりやすい部分ですです。
 それにもまして、敵と相対して緊張しているとき、動物的反射として身体を大きく見せようとして肩を持ち上げようとします。
 試合前の選手が肩を上下して、肩周囲をリラックスさせる必要があるのはそのためでしょう。
 もしかしたら萎縮して肩をすぼめているからかもしれませんね。
 いずれにしても、他の部分に比べて非常に心理的影響を受けやすい部分でもあります。

3-3-1 なんでもできる精密機械 腕~手

 人間は二足歩行で手が自由になり、大脳が発達して、手先が非常に器用になりました。
 科学が発達して色々なロボットが開発されていますが、人間の手のように精密な仕事ができる機械が完成するには至っていません。

 スポーツの場面でも腕~手は非常に重要な部分です。
 体幹と肩関節を介してつながり、左右両側に突き出ている腕は、可動範囲が非常に広く自由です。
 その部分の自然な状態というのは、身体のほかの部分の状態次第と言えるでしょう。
 どういうことかというと、腕~手はそれ自体の動作の他に、他の部分の動作を助ける重要な役割も大きなウエイトを占めているということです。
 例えば、走るときには右足が前に出るときに左腕を前に振るとか、高くジャンプするとき両腕を勢い良く振り上げるなど、腕の動きが加わることによって、ある身体全体の動作の質を高めることができるのです。

 いくら自由に動くといっても、腕だけで何かできるわけではなく、体幹につながっているからこそ可能なわけです。
 ですから体幹の側がフニャフニャしていたんでは、せっかくの腕のパフォーマンスも台無しです。
 腕~手で思いどうりの動作をしようと思ったら、その土台として耐えうる体幹を作ることも重要だと言うことです。

3-3-2 小さな力で大きな効果 腕~手

 手の小指1本だけを見ると、なんだかひ弱で頼りなげな感じです。昔から女性のことを小指で表現するのも、そういうイメージからなんでしょうか。
 しかし、握力が30kgの人ならば、単純な計算で指1本あたり6kgですから、小指の細さを割り引いたとしても4~5kgくらいの力はあるということです。
 例えばラグビーで、華麗なステップを切る相手にタックルしようとしたとき、小指だけでも足首あたりに引っかけることができれば、脚がもつれて転ぶかもしれません。
 例えばテニスで、チャンスボールが来たとき、小指が痙攣して利かなくなってしまったら、インパクトのときにラケットがぶれてネットにかけてしまうかもしれません。
 たとえ小指1本でも、試合を決することになる場面もあるのです。
 五体満足なのであれば、身体のどの部分もおろそかにしてはいけませんね。

 手は器用な運動器であると同時に「触覚」でもありますから、知覚神経が細かくはりめぐらされています。
 ですから、爪の根元のささくれなんかでも非常に気になります。
 転んでできた擦り傷が膝にあったからといって、パフォーマンスに影響を及ぼすことはほとんどないでしょうけれども、手は多用する部分でもあり、目の前にありますから、小さなケガでも意外と影響が出てしまいます。
 サッカーなど手を使わない競技は別にして、多くの種目で「手の健康」は非常に大きな意味を持つのです。

3-4-1 「姿勢が悪い」とは? 脊柱

 私がこの自然体の研究を始めたのは、あるスポーツ大会の開会式での来賓挨拶で、「外国のコーチに、日本の選手は姿勢が悪いと言われた」と言っていたのを聞いて、「そうなんだろうか?」と疑問に思ったのがきっかけです。
 そんないきさつを抜きにしても、背骨=脊柱のあり方はこの研究の最重要部分であると言えます。

 さて、日本人の姿勢が悪いと言われた件ですが、そもそも体型には人種的な特徴があります。
 それぞれ一言で表すと、
 ヨーロッパ系のいわゆる白人は「ガタイがデカイ」
 アフリカ系のいわゆる黒人は「手足がひょろ長い」
 アジア系のいわゆる黄色人は「小さくて軽い」
となります。

 脊柱だけ見てみますと、白人、黒人は横から見たS字型の湾曲が強く、黄色人は湾曲が少ない傾向があります。
 湾曲が強いと、肋骨が上に押し上げられ胸郭が前後に厚くなります。湾曲が少ないと薄くなるのです。
 胸の厚い人と薄い人が並んで立ったら、厚い人は胸を張っていて、薄い人は肩をすぼめているように見えてしまうことでしょう。
 それをもって「姿勢」が悪いと言ってしまうと、姿勢を作るときに大きな間違いを犯してしまうことになります。
 かつて、日本よりもトレーニング理論が進んでいた欧米から、喜んで取り入れていたトレーニングのマニュアルが、実は日本人には適当ではなかったという例はいくつもあるのです。

 では、日本人にとって「自然体で良い姿勢」とはどういうものなのでしょう。

3-4-2 「良い姿勢」とは? 脊柱

 背中が丸まっていると「背を伸ばしなさい」なんて背中を叩かれたりした覚えがあります。
 だいたいそういう時は、背中が丸まっているというより、腰が丸まっているか、または肩が前に出てしまっていることが多いようです。
 3-4-1で書いたように、背骨はS字型に湾曲していて、背中では後ろに丸く、腰では反っているのが普通です。
 背中は丸くていいんです。そもそも脊柱の上のほうは肋骨がくっついてますから、丸めようったってそんなに丸くはならない部分です。
 ですから、姿勢が悪い子には「背を伸ばしなさい」ではなく、「腰を伸ばしなさい」または「肩を後ろに引きなさい」と言わなければならないんです。

 エアロビクスでインストラクターが必ず注意するのは、「腰を反らさないように」ということです。
 激しい運動をするときに、腰をそらしていると腰を痛める恐れがあるからというのがその根拠だそうです。
 しかし、欧米人は脊柱の湾曲が強いのでわざわざ上に伸ばしてやる必要があるのですが、日本人の場合、もともとそれほど腰が反っていないので、無理やり反りを戻す必要がない人がほとんどだと思います。

 バレエでは美しい姿を作るために背中を平らにしようとします。
 これも、欧米人では背骨の湾曲を少なくするために骨盤を後ろに傾けるなんてことからやらなければならないのですが、日本人では多くの場合必要のないことです。骨盤を後ろに傾けて、かえって脚を短く見せてしまっているような面も見られます。

 このように日常の認識も少しずれていたり、欧米から取り入れられた種目には、日本人にとって間違った解釈がされたりしているものも多いのです。
 日本人には日本人に合った、もっと言えば個人それぞれに合った姿勢、運動の仕方が、本来必要なものなんですね。

3-4-3 クッションとバネ 脊柱

 脊柱は首から腰まで、合計24個の椎骨の連なりからなっています。
 それぞれの椎骨の間には椎間板という、ゴムのような物が挟まっていて、クッションの役割を担っています。
 また、椎骨同士は、椎骨の後ろ側にある左右ふたつの関節でつながっています。もちろん、靭帯や関節包、筋肉などにかなり頑丈に守られてつながっています。

 これがどのようなカーブを描いて並んでいるのが自然体なのか、それは前の項で書いたとおり人それぞれですが、ひとつ言えることは、椎間板が、ある一方でつぶれているような状態は自然とは言えないということです。
 多くの場合、椎間板の上下の辺はほぼ平行です。
 それが、脊柱の並び方が不自然だと、椎間板に均等な圧力がかからなくなり、前後左右どこかに強い圧力がかかってしまいます。
 この状態が長く続き、強い負荷がかかったりすると椎間板が変形してしまうヘルニアになってしまいます。
 運動をするときには脊柱全体で機能して力を出さなければならないので、ヘルニアなどの病気にならないとしても、椎間板への偏った圧力があると100%の力を発揮することができなくなるでしょう。
 細かいことを言うようですが、椎間板が脊柱のクッションの役割を果たしていると言うことは、圧力をかければそれに反発する力があるということで、その反発力も体を動かすときに重要な働きをしているだろうと思われるのです。
 それが正常に機能しないということは、あまり好ましくない状況と考えられるわけです。
 そのクッションだとか反発力だとかは、意識に上る機能でないだけに自然で健康な状態を保つ必要があるのではないでしょうか。

3-5 動かないようで動く胴体 体幹部

 体幹部は脊柱を支柱として立っている胴体で、重要な内臓がすべておさめられています。
 上部は肋骨で覆われ、中には肺、心臓などがあります。
 下部は腹筋が縦横無尽に張りめぐらされていて、中の大部分を腸が占めています。
 胴体は断面が楕円形で、身体のどの部分よりも太いので、あまり大きな動きはできないようなイメージですが、実際には身体を折り曲げる、反る、ねじる、それらの組み合わせと、けっこう大きく動かせるところです。

 腕や脚を大きく動かそうとしたとき、体幹部がフニャフニャしていたのでは、すばやく、または力強く動かすことはできません。
 体幹部は腕や脚の運動の強度に見合った強さを備えていなければならないということです。

 また、どんな動作でも、身体全体で上手くバランスを取りながらでないと、良いパフォーマンスは生まれません。
 例えば、右腕で行う動作を右腕だけでやるとしたら、動きは非常にぎこちなく、弱々しいものになってしまいます。
 左腕でバランスを補ったとしても、単純な動作しか上手くできないでしょう。
 それが、体幹部も柔らかく使えたとしたら、調整できる箇所がたくさん増えるわけですから、非常に複雑な動作も可能になるのです。

 体幹部が持つ、競技に充分必要な強さ(筋力)、可動域の広さ(柔軟性)、動きの巧緻性が、実は非常に重要な影響を身体全体のパフォーマンスに与えているのです。
 もし、もうひとつ上のレベルを目指すとしたら、体幹部の筋力、柔軟性、巧緻性を見直してみることも必要となるでしょう。

3-6-1 月へんに要と書いて腰

 一言で腰と言ってもどこからどこまでを腰とするのか、人それぞれ意外と曖昧です。
 脊柱の腰椎のあたりは“腰”椎っていうくらいですから腰でしょうね。背中の下のほうという人もいます。
 骨盤も腰といえるんでしょうけれども、坐骨なんかはお尻の下のほうにありますし、恥骨はその前のほうです。ここを腰といってピンと来る人は少ないんじゃないでしょうか。
 腰とは脊柱と骨盤の境目を中心とした一帯ってことでいいでしょうかね。

 腰痛は直立歩行の副産物だと言います。
 スポーツ選手に腰痛はつき物だとも言います。
 体を動かすとき、ほとんどの場合上半身と下半身は違う動きをしていますから、その上半身と下半身をつなぐ腰の部分は非常に負荷がかかっているということですね。
 そのわりに腰椎なんかは、肋骨のサポートもなく、ただ1本で立っているわけですから、色々問題が起こるのも無理もないと言えるでしょう。
 ただ、腰周辺の筋肉は非常にたくさんあり、どれも強力です。
 肘や膝を取り巻く筋肉は4~6本くらいなのに、腰椎周辺は16~30本くらいあります。(「くらい」と曖昧なのは定義の違いを考慮しています)

 その筋肉がうまく連動してこそいいというのは、他の部分となんら変わりはありませんが、一方に力が入るときに、拮抗するもう一方は弛緩するというような単純なわけにはいきません。
 それは、腰が胴体の一部であるため(前項参照)でもあり、怪我をしないために必要なことでもあるのです。

3-6-2 コシの強さが決め手です

 立った姿勢で身体を前屈させ、重い物を持ち上げようとしたとき、いわゆる「ギックリ腰」になってしまうケースは非常に多くみられます。
 単純にギックリ腰といっても、痛んでしまった部位や組織は人それぞれですから、運動不足の人でも、毎日トレーニングしている人でも起こる可能性はあります。
 ただ、いずれにしても不用意にその動作をしたときに突発的に起こることが多いようです。
 その物の重さを知った上で、「さあ持ち上げるぞ」と気合を入れて持ち上げようとしたときは、意外と怪我をしないものです。
 要するに、万全な形であれば腰はかなり強いと言うことです。

 しかし、スポーツの場面では、常に万全な形で運動できるわけではありません。競技によっては相手の万全な形を崩すことが目的であったりするわけです。
 それでも怪我をしないようにするには、動きながらも、怪我をしないような筋肉のサポート的動きが必要になるのです。
 例えば、相撲でガツンとぶつかるとき、腹筋で腹圧をギュっと高めておかないと腰のところでへし折られてしまうでしょう。新体操で腰をグニョっと反らせてボールをキャッチするようなとき、おなか側の筋肉が全部緩んでしまったら、脊柱の関節はあえなく折れてしまうでしょう。
 そういう腰の働きのイメージがなく、尚且つ腰周辺の筋力が弱い場合、スポーツをすることは非常に危険であると言えます。
 スポーツの練習の初期の段階は、スポーツできる腰、その競技用の腰を作っていくことがかなり重要なのです。